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プロフィール
植田 伸子  
Shinko Ueta
 
オーケストラ
佐賀市に生まれる。国立音楽大学を首席で卒業。御厨藤子、安永武一郎、水谷達夫の各氏に師事。
1977年に佐賀でデビューリサイタルを開催。それと前後して日本フィル、九響、東響など多くのオーケストラや室内楽との共演を重ねるなど、本格的な演奏活動を開始。日本各地やシカゴ、メキシコ等海外公演も多く、東京においてもすでに毎年30年近くリサイタル実績を重ねている数少ないピアニスト。
1988〜89年にシカゴ大学音楽部でアースリー・ブラックウッド教授に学ぶ。また、1998年よりメキシコ各地(メキシコシティー、クエルナヴァカ、グアダラハラ等)でも毎年リサイタルをおこなっており、2006年は日墨協会50周年記念に、2009年には日墨交流400年記念に招かれてリサイタルを開催した。
最近は通常の演奏活動およびレコーディングと並行しながら、ピアノ演奏とドラマリーディングがおりなす新機軸の朗読劇「月光の夏」での演奏が続いている。2003年2月の初演以来、東京都内各所をはじめ全国50ヶ所以上でたびたび演奏。今後も各地で演奏予定。因みに近年話題となった「月光の夏」は、1990年のKBC九州朝日ラジオ放送に於ける植田の「月光」の演奏が一連のブームのきっかけを作ったことはあまり知られていない。
1995年よりレコーディングを開始。すでにCD「植田伸子ピアノ名曲アルバム」を6巻リリースして好評を博し、1巻と4巻は月刊誌「ステレオ」で優秀録音CDに選出されている。また、2006年の「月光」2008年の「悲愴」は、それぞれ「ショパン」誌で優秀盤と推薦盤に選ばれた。ここ数年はベートーヴェンの作品に特に力を入れている。2014年には、日本演奏連盟より発行される文化庁の「演奏年鑑 音楽家人名録」に推挙された。武岡鶴代賞、第1回内山文化賞、佐賀県芸術文化賞などを受賞。

CHOPIN201905

 

美しい抒情と深い情感の漂う佳演
植田伸子ピアノリサイタル2019

植田伸子は、国立音楽大学を主席で卒業後、米国のシカゴ大学音楽部でも研鑽を積み、本格的に演奏活動を開始して以来、数々の録音や朗読劇『月光の夏』の演奏といったプロジェクトの他、多くのオーケストラや室内楽との共演を重ね、米国やメキシコをはじめ海外公演も毎年のように行うなど、内外で広く活躍しているピアニスト。
東京で毎年開くリサイタルだけでもすでに30回を越えるという。今回の曲目は、ベートーヴェンの《ソナタ第30番》作品109、シューマンの《ソナタ第1番》作品11、シューベルトの《ソナタ第21番》D960。
第30番では、植田の弾きだす明晰な響きが豊かなニュアンスをたたえながら、ベートーヴェンの音楽そのものが持つヒューマニズムの精神や、作品に内在する緊張感を巧みに描きだしていた。主題と六つの変奏からなる第3楽章はとりわけ魅力的で、植田はベートーヴェンが自らに語りかけるかのような内省的な作品と一体化し、さまざまな思いと対峙しながら幻想を自由に飛翔させていた。
第1番では、若きシューマンならではの幻想性と情熱、そしてロマン的表現を過不足なく現出して、魅せた。次にシューベルトのピアノ・ソナタの最後を飾る永遠の傑作と評される第21番。この長大で情趣あふれるソナタでは、植田のシューベルトに対する思いのたけが吐露されていて、美しい抒情と深い情感の漂う佳演を繰り広げていた。 (2019年1月30日/東京文化会館小ホール)

横堀 朱美(ショパン、2019年5月号)


CHOPIN201709

 

音楽への大いなる憧憬、みなぎるバイタリティー
植田伸子ピアノリサイタル2017

毎年リサイタルを開き、米国やメキシコなど海外公演も多い植田伸子のリサイタル。
バッハの《パルティータ第1番》に始まる。鍵盤によく馴染んだなめらかなタッチである。確信に満ちたテンポ設定、勢いのあるアルマンド、奏者の心が踊るクーラント。サラバンドは、2拍目に充分に寄りかかり、快速なジーグで締めくくった
続いてベートーヴェンの《ソナタ第18番》作品31の3。広い世界に問いかけるような第一主題、続く各素材を自分の言葉で綴っていく点に、長いキャリアを感じる。第2楽章は速めにテンポをとりエネルギッシュ。線の太い第3楽章。中間部の和音の会話が充実。第4楽章は恒常的リズムが弾む。
後半はショパンの名曲。まずは《エチュード》作品25の1でまろやかなショパンの響き、最後のアルペジオが飛ぶように細やか。続くノクターン第20番遺作は、憂いに満ち、後半のリズムの変化が自然である。
《バラード第1番》は、自分の身の丈で日記をつけるように弾き好演。鍵盤の上を滑るようなレガード奏法がショパンにふさわしい。 旋律に浸りきって歌わせたDes durの《ノクターン第8番》を挟み、最後の《スケルツォ第2番》は、活力みなぎり、有無を言わせぬスピード感に引き込まれるようであった。
(2016年9月24日/東京文化会館ホール)

秦 はるひ(ショパン、2017年9月号)


CHOPIN201510

 

長年の経験・研鑽を積み上げたベートーヴェン
植田伸子ピアノリサイタル2016

東京においても毎年リサイタル開催している、植田伸子ピアノリサイタル。
今年は、オールベートーヴェンプログラム、ピアノソナタ第8番《悲愴》、第17番《テンペスト》、第14番《月光》、第23番《熱情》。
中期の代表作を中心としたものであり単なる名曲集ではない。プログラムを通して、植田自身の長年の経験を積み上げて来たベートーヴェン像を明確に提示した秀逸の演奏である。
《テンペスト》第3楽章が突出すて有名な曲で、終始16分音符の同じリズム型が続き、この16分音符をいかに美しく弾くかではなく、この曲の秘める不安や迷い、耳の病気の進行に対する激しい感情を表現するかのような演奏であった。《月光》の冒頭部分も苦悩・悲しみをみごとに表現し、抒状楽章においても第1楽章を浄化し第3楽章の劇的表現に結び付けた。
最も印象的だったのが、《熱情》第1楽章のいわゆる「運命の動機」を強調することで、植田のベートーヴェンへの共感を聴衆にダイレクトに伝えた秀演であった。プログラムの文中に有るように、まだ山高く道半ばと言う植田の演奏は、ベートーヴェンがこれらの曲に込めた苦悩や歓喜に共感し、長く研鑽しなければ表現しえない植田の世界である。
現在、あまり個性の感じられない演奏の多い中に有って、強く揺るぎない信念と個性的な植田の演奏が、毎年進化していくのが楽しみである。
(2016年9月24日/東京文化会館ホール)

渋沢 明(ショパン、2016年12月号)


CHOPIN201510

 

リサイタルの格調に貢献した選曲のセンス
植田伸子ピアノリサイタル2015

彼女の演奏を聴くのは一昨年夏以来の2回目。質の高い好演奏会だったことをよく記憶している。
今回の曲目はモーツァルトの『ソナタ変ホ長調K282』に始まり、ベートーヴェンのソナタ『ワルトシュタイン』。後半に入ってブラームス『3つの間奏曲作品117』、シューマン『謝肉祭』。良いプログラム・ビルディングだ。ギャラント・スタイルを特色とするモーツァルトの6曲の初期ソナタの4番目。ようやく自身の新しいスタイルが身についてきた時期の作品である。
いいプロだと感銘を受けたのは、次に『ワルトシュタイン』が置かれたからだと言って過言ではない。この曲はさほど華麗でも勇壮でもない。数あるベートーヴェンの名曲の中からこの曲だけを選んで弾くのはなかなかのことである。何故ならばこの曲こそは、非の打ちどころが無いという意味で、ベートーヴェンの最高傑作のひとつだからである。この曲が真摯に研究され、厳粛に弾かれたことによって、次のブラームスのやや寂しげな独り言も、シューマンのにぎやかなお遊びも、19歳の若いモーツァルトまで含めたすべての曲が所を得て、格調高いアカデミックなコンサートを形成することができたのである。
植田伸子は佐賀県出身で、国立音楽大学の卒業。アメリカ、メキシコなどにも足跡を遺しているが、彼女の本領は、ベートーヴェンを中心に置いたアカデミックな音楽世界で、その真摯な活動意欲は、30回を超えた東京での不断のリサイタル開催にもよく現れている。

音楽評論家=平野 浩(ショパン、2015年10月号)


CHOPIN201311

 

植田伸子は明確な表現スタイルを持ったピアニストである。前半のモーツァルトやベートーヴェンのピアノ・ソナタなど彼女独自のピアニズムの特性がギラギラと輝きだす表現で貫かれる。モーツァルトの「第11番」(イ長調k331)など、清楚やけれんみのない既存のイメージとは異なる何か赤裸々な様相を呈していたし、ベートーヴェンの、<熱情>もまた情念の発露がひしひしと身に迫るような覇気が感じられる。
現代に生きる生身の人間の心情を投影したかのような燃焼度の高い鼓舞される余韻が残る。後半は得意のリスト。
「巡礼の年第2年<イタリア>」からペトラルカのソネットを3曲(第47番、第104番、第123番)と、「ソナタ風幻想曲<ダンテを読んで>」。ヴィルトゥオジティは言うまでもないが、3曲のソネットの秀逸さに目を見張る。
リストの心情吐露ともいうべき哀愁漂う抒情性が実に生彩に描かれていた。<ダンテ>の綿密な分析力も含め植田のピアニズムが1つのピークにあることを実感させる演奏会だった。(4月29日・東京文化会館<小>)

音楽評論家=斎藤 弘美(音楽の友、2014年7月号)


CHOPIN201311

 

非凡な見識、質の高いセンス、誠実な演奏
植田伸子ピアノリサイタル2013

 奏者は30年毎年リサイタルを欠かさず、オーケストラとの共演や室内楽、録音など、積極的かつ真摯な活動をたゆまず続けてきた人。 
 曲目はモーツァルトのロンド二長調、バッハ(ブゾー二編)<シャコンヌ>、ベートーヴェンのソナタ第11番。後半はスペインに飛び、アルベニス≪スペインの歌≫とファリア<火祭りの踊り>。この選曲・構成を見て、筆者は彼女が非凡な見識とセンスの持ち主であることを確認。まさにその通り、誠実でみごとな演奏を聴かせてくれた。解釈は第一級。決めるところはしっかり決め、軽快さや楽しさも失わない。
 ロンドは「ソナチネ・アルバム」にも収録される子供からも親しまれている名曲。最初に何を弾くかはその後を左右する大事。親しみやすく格調も高いこの曲を時代順を超えて持ってきたことは、続くアカデミックなバッハ、ベートーヴェンに無理なく繋ぐ最善の配慮。
 教会音楽家だったバッハの心には重厚なオルガンの音が常に鳴り響いていたに違いない。オルガンはパイプに空気を送って鳴らすため、僅かだが時間がかかる。その一瞬の待ちが壮麗な演奏の表現を呼ぶことも多い。一方モーツァルト時代のピアノは今のように豊かには響かなかった。そのような各時代の楽器の性格を表現に反映させることができれば、彼女の演奏は一層進化するに違いない。スペイン、アンダルシアのリズム感もなかなか良かった。 (10月6日 東京文化会館小ホール)

音楽評論家=平野 浩(ショパン、2013年11月号)


CHOPIN201212

 

明晰で構成力のある、みごとな演奏
植田伸子ピアノリサイタル2012

 植田伸子は国立音楽大学を首席で卒業。国内著名オーケストラとの共演や海外での公演、CDリリースが多数あり、30年以上にわたって毎年リサイタル開催の実績あるベテランピアニストだ。
 この日の冒頭はモーツァルトの《デュポールのメヌエットによる変奏曲》。華麗な音の展開の中に、各変奏の個性を浮き立たせた明晰さがあり、とりわけ第7変奏の技巧、第9変奏の装飾的な発展はみごとなものであった。
 ベートーヴェンのソナタ第7番では、第1楽章は第1主題と第2主題の関連性の表出がうまく、第2楽章は悲しみの情緒ある演奏がみごと。第3楽章では作品中の歌が伝わり、第4楽章は音楽を細かくまとめ、個性ある表情を表出。通して構成力充分のソナタであった。
 ナザレーの《ワルツエポニーナ》は趣向の違うラテン系音楽を感覚的に捉え、小味が心地良かった。
 アルベニスの組曲《スペイン》では各曲を特徴的に面白く聴かせたが、もう少し強いスペイン的な香りがあってもよかったのでは。
 シャブリエの《スペイン》はフランス的な感覚の中に近代的な音楽を構成し、作品独特のしゃれた味の表出に成功、雅やかで華やかな雰囲気があり、奏者のテクニックもみごと。
 後半に近代的な音楽を取り上げた意欲は立派であるが、やはり前半の方に強い印象を受けた。(10月6日 東京文化会館小ホール)

音楽評論家=家永 勝(ショパン、2012年12月号)


ムジカノヴァ

 

 植田伸子(国立音楽大学卒業)が前半にモーツァルト《キラキラ星変奏曲》とベートーヴェンの《ソナタ第4番》、後半にオールショパン(《練習曲「エオリアンハープ」》《練習曲》作品10-10、《バラード第1番》《ノクターン第7、第8番》《スケルツォ第2番》)プログラミングしてのリサイタル。
彼女は、旺盛な演奏活動に加え、CDを既に6枚リリースしている。また、ドラマリーディングを織り込んだピアノ演奏活動(朗読劇「月光の夏」)もしている彼女は、ここ数年ベートーヴェンの音楽に強く惹かれているという。
モーツァルトは左手の存在感が強く、右手との有機的なコンビネーションをもって主題とそれに伴うフレーズを対位的に響かせる。ゆえに童謡主題がぐんと大人の様相を深め、以下の変奏においても主題を彩りつつ音楽を深めるなど、左手の存在が大きい。その結果、プリティ、ラヴリーといったこの曲へのイメージを払拭、モーツァルトがベートーヴェン、ブラームスへと連なる変奏曲の大家であると印象づけ、じっくり奏でた。
ベートーヴェンは植田伸子がもっとも得意とするだけにベートーヴェンの意欲的ソナター《交響曲第2番》にも比肩するーを深く掘り下げて(第2楽章ラルゴでとくに)感銘深く奏でた。また、第4楽章で強美なソノりティのなかに高音を煌かせるなど、ピアニスティックなチャームも煌かせて、魅せた。
ショパンも総じて強靭、雄弁。ノクターンにしても“憧憬”というより明確な意志を秘めて響き、なかでもバラードやスケルツォがいかにも彼女らしく手応え篤き熱演であった。植田伸子を聴くのは久しぶりだが、左手が土台を築きつつ右手との有機的なコラボレーションで音楽を強靭に構築し、雄弁に語る彼女の美質は、ここでもやはり、輝いていた。くわえて曲の核心をより深く探求するあたりに、彼女の音楽性の深まりがうかがえて頼もしく、嬉しくもあった。(10月8日 東京文化会館小ホール)

音楽評論家=壱岐邦雄(ムジカノーヴァ2012年1月号)


CHOPIN

 

味わい深い表現が魅力
植田伸子ピアノリサイタル2011

  近年ベートーヴェンに取り組む植田伸子のリサイタル。最初のモーツァルトの《「ああ、お母さん、あなたに申しましょう」による12の変奏曲》(〈キラキラ星変奏曲〉)では主題をくっきりと奏し、変奏ではテンポを揺らして趣きを出したり、快速かつ鮮やかに奏でたりして聞かせた。
続いてのベートーヴェンのソナタ第4番、第1楽章は凛とした表情感による明快かつ勢いのある弾奏、第2楽章は和音の味わいもある豊かな表情で奏された。第3楽章は明快で、スケルツォ的趣向も感じられ、終楽章では優雅な雰囲気、対照的に第2副主題は活気ある表情感が感じられた。
後半のショパン特集では繊細かつ大胆な表現、まずエチュードの2曲、作品25の1は華やかに連綿たる情感を奏で、作品10の10はアクセントを効かせ、ときに柔らかく、ときに高揚たる弾奏で聞かせた。バラード第1番ではアゴーギグを工夫、主要主題での暗い情感や副主題での柔らかな表情を紡ぎ出した。ノクターン作品27の2曲、嬰ハ短調は端々に陰影を漂わせ、中間部では情感が溢れ出すよう、変ニ長調では精細な表現で、程よいルバートも効いて、自然な呼吸感が感じられた。最後のスケルツォ第2番でのダイナミックな表現は圧巻、トリオでの繊細な奏楽も印象に残った。(10月8日 東京文化会館小ホール)

音楽評論家=菅野泰彦(ショパン、2011年12月号)


CHOPIN

 

 佐賀市に生まれ、国立音楽大学を卒業、日本各地やシカゴ、メキシコなど海外公演も多く、東京においても30年以上リサイタル実績を重ねているという植田伸子(うえた・しんこ)を聴く。彼女は、旺盛な演奏活動に加え、CDを既に6枚リリースしている。また、ドラマリーディングを織り込んだピアノ演奏活動(朗読劇「月光の夏」)もしている彼女は、ここ数年ベートーヴェンの音楽に強く惹かれているという。
  この日の曲目も、ベートーヴェンの4大ソナタが選ばれた:「悲愴」作品13、「月光」作品27ー2、「テンペスト」作品31−2、「熱情」作品57。
  これらのソナタ、緩徐楽章に長調があるとはいえ、全体に単調の色彩であるトラジックな気分が充満している重い曲ばかりである。これらを、どう一夜にまとめるのかに興味があった。
  女性らしい柔らかな情感が漂う演奏で、演奏者は会場に音響の波を幾重にも作り、聴衆をその波で包む。声を荒げず、しかし語るべきところはきちんを語るという演奏で、特別変わった意思表示はなく、しかも、しなやかでもロマンティック過ぎない演奏であり、そこには男性的とも言える骨太のしっかりした構成力も感じられた。男性的逞しさを持つベートーヴェンの作品を、女性の視点で語るを、こうなるといった印象の演奏だった。(10月2日 東京文化会館小ホール)

音楽評論家=雨宮さくら(ムジカノーヴァ2011年1月号)


CHOPIN

 

充分なスケール感と逞しさから生まれる独特の説得力
植田伸子ピアノリサイタル2010

  ベートーヴェンのピアノ・ソナタの名曲をまとめて演奏することは、晩年の後期ソナタを弾くのとはまた異なった難しさがあるといえるだろう。しかも「悲愴」「月光」「テンペスト」「熱情」という超ポピュラーな曲を並べたのは植田ならではの意欲の表れといえよう。演奏者の植田は国立音大を卒業後、シカゴ大学音楽部に学び、日本各地はもとより、アメリカ、メキシコでも演奏の実績を積み重ねているベテランである。
  まず第8番「悲愴」はグラーヴェの序奏が緊迫感を持って開始され、主題に入っても贅肉を削ぎ落としたような筋肉質な音楽には誇張がない。それだけに、幻想味ということではいくぶんの物足りなさがあるものの、それは演奏者の持つ気質と無縁ではあるまい。第14番「月光」も、音楽に対する植田の真摯な姿勢が清潔な演奏を作り出しているが、ここでも第2楽章などでやや紋切り型のそっけない表現にとどまっていたのが惜しまれる。
  第17番「テンペスト」も、やはり飾り気のない誠実さが好ましかったが、圧巻はなんといっても最後の第23番「熱情」である。満を持したかのような充分なスケール感と逞しさが、独特の説得力を生み出していて、最終楽章はコーダに向かっての一直線の音楽の運びは爽快でさえある。プログラムの最後を締めくくるにふさわしい演奏だった。ただ全体にいえることは、しびしば響きが混濁することで、その点が改善されればされに純度の高い音楽を目指す余地がのこられている。(10月2日 東京文化会館小ホール)

音楽評論家=野崎正俊(ショパン、2010年12月号)


CHOPIN

 

壱岐邦雄 RECOMMENDED CD
2007年防府アスピランテホールで収録。ベートーヴェンのピアノのソナタに意欲を燃やす植田伸子の「月光ソナタ」(前作アルバムSUCD - 510に収録)に続くソナタ3曲。第1番第4楽章をはじめ急速シーンにおける緊迫美に加えて「悲愴」第1楽章序奏部から主部への自然な移行や第2楽章カンタービレの静謐美など、彼女の成熟ぶりが随所に刻印されて聴きごたえ充分。「植田伸子ベートーヴェン・ソナタ全集」を期待したい。

音楽評論家=壱岐邦雄(ショパン、2009年1月号)


CHOPIN  

磨きのかかる鮮烈なピアニズム 植田伸子ベートーヴェン・ピアノソナタ演奏会
植田伸子(国立音大卒)が朗読劇「月光の夏」ほか幅広い活動を行っている中で、これはベートーヴェンに意欲を燃やす彼女にとって格別のリサイタル。プログラムは第2番、第8番「悲愴」、第26番「告別」、第30番のソナタ4曲。第2番第1楽章ヴィヴァーチェが溌剌と弾み、第2楽章は速めのテンポに緊迫感を湛える。スケルツォは青年ベートーヴェンの覇気が漲ってエネルギッシュに突き進む。「悲愴ソナタ」は冒頭のグラーヴェかれして緊迫が漂う。第2楽章を強美なカンタービレで歌い、第3楽章でのたたみかけるようなアッチェランドに情熱がほとばしるシーンなど、彼女ならではの持ち味が随所に発揮された。「告別」はさして標題にこだわらずピアニスティックに鮮美に響かせた。といってもフィナーレ『再会』ではたしかに歓喜の情が炸裂して、圧巻。第30番も晩年の境地といったものに拘泥することなく、全曲に気力が漲ってピアニスティックに鮮美に響かせた。植田伸子、以前のような前傾姿勢がセーブされるあたりに成熟味を示しつつ、いちだんと磨きのかかった鮮美なピアニズムをもって各曲のキャラクターを浮き彫り、<敬愛なるベートーヴェン>を喜々溌剌と奏でて魅せた。(2008年9月14日、東京文化会館小ホール)

音楽評論家=壱岐邦雄(ショパン、2008年12月号)


ムジカノーヴァ  

植田伸子ピアノ・リサイタル2008ーベートーヴェン・ピアノソナタ演奏会
植田は国立音楽大学を卒業後米国シカゴでも研鑽を積み、その後毎年リサイタルを開催するなど広く活動を続けているベテラン。CDも6枚リリースしている。今回4曲のベートーヴェン≪ソナタ≫が演奏された。冒頭は、≪第2番イ長調≫作品2-2。歯切れのよいタッチの中より、強い主張の訴えが伝わり、2楽章の低音にもめりはりがあり、つぼを押さえた表情。4楽章の繊細なパッセージも美しく、この楽章の特色を見事に表現。次に、≪第8番ハ単調「悲愴」≫作品13。1楽章は力まない中に迫力があり、2楽章も温か味のある音色と共に作品の大きな流れをうまく捉えていた。3楽章にも大きな快感と抒情性があり生き生きとした心が伝わる。通してこのソナタの本質的な味を見事に表出。後半は≪第26番変ホ短調「告別」≫作品81a。1楽章の抑揚のある2つの主題が面白い表情をみせ、2楽章も陰影のはっきりした流れの中の歌心は心地よい。3楽章の躍動的なパッセージと共に音楽の大きな盛り上げも実に効果的であり、見事なピアニズムを聴かせる。最後は≪第30番ホ長調≫作品109。1楽章の2つの主題の陰影の中に幻想感があった。3楽章の変奏の中にも深い情緒を感じたが、前3曲に比して心持ち迫力に欠ける感がなくはなかった。この人の≪ソナタ≫は音楽的な構成力がうまく、演奏の中より生き生きとした心が伝わり、作品の哲学といったものも感じる。こうしてベートーヴェンの≪ソナタ≫を深く掘り下げ演奏する姿勢は、誠に立派なものである。(2008年9月14日、東京文化会館小ホール)

音楽評論家=家永 勝(ムジカノーヴァ、2008年12月号)


CHOPIN  

鮮烈、会心のベートーヴェン 植田伸子ピアノリサイタル
植田伸子(国立音大卒)は内外で幅広い活動を行い、CDも5枚を数えるベテランで、その中には朗読劇「月光の夏」(およびこれに関連のCDも発表)といった斬新、ユニークなプロジェクトも含まれる。彼女はこのところベートーヴェンに傾倒していて今回も「ベートーヴェン・ピアノソナタ演奏会」と題してのリサイタル。前半は第1番と第12番「葬送」。粒立ちのそろった美音、俊敏なリズム、歯切れのよいスタカート、鋭いダイナミクス、緊迫のアチェランド---。速めのテンポで強靭な左手が音楽をぐいぐい押し上げ、つき動かす。結果、第1番はもちろんのこと、第12番にしても青年ベートーヴェンらしい覇気に満ち、情熱が輝く。第1番の3楽章メヌエットはスケルツォ風に響き、第12番第3楽章の「葬送行進曲」が昂然と頭をもちあげて歩む。後半は第17番「テンペスト」と第31番。第17番の冒頭、第1主題が急迫して邁進するさまはまさに「テンペスト」であり、第2楽章は嵐の後の清冽な空を思わせる。第31番も逡巡することなく、ベートーヴェン純粋のピアノ音楽としてクリアに響かせ、奏でた。植田伸子のピアニズムと感性が貫き輝いて鮮烈、会心の「ベートーヴェン・ピアノソナタ演奏会」であった。(20071020日、東京文化会館小ホール)

音楽評論家=壱岐邦雄(ショパン、20081月号)


 

 植田は国立音楽大学を卒業後、88年に渡米し研鑽を積み、30年近く毎年リサイタルを開催している。前半が、「ピアノ・ソナタ第1番」「ピアノ・ソナタ第12番≪葬送≫」、後半が、「ピアノ・ソナタ第17番≪テンペスト≫」「ピアノ・ソナタ第31番」といった、ベートーヴェン「ピアノ・ソナタ」演奏会。ベートーヴェンの初期ソナタから後期ソナタまで時代を追って構成されており、時代時代での様式的特徴が順次読み解かれ、並々ならぬ作品への思い入れとともにその意欲がうかがえた。欲をいえば、音楽が転じる部分での繋がりなどにいまひとつ丹念さが欲しかったわけでもないが、引き進める中での大きな構成感と音楽の先々への見通しがさらにあれば、よりいっそう魅力が増すのではなかろうか。しかしながら、演奏に対する直向きさとともに作曲家への距離を縮める強い思いが随所に伝わり、すべてにおいて彼女の持ち前の色が感じられた。(20071020日、東京文化会館小ホール)

音楽評論家=高山直也(音楽の友、200712月号)


ベートーヴェンのソナタ「月光」は、本日のプログラムの中で、最も印象的であった。第1楽章では、3連符の自然な流れに身を任せ、自らの心情を旋律に託して淡々と歌い上げた。終楽章でも、デュナーミクを巧みに活かし、作品に自然な高揚感もたらした。(2006917日、東京文化会館小ホール)

音楽評論家=道下京子(ムジカノーヴァ 200612月号)


CHOPINに掲載
  入念緻密な月光植田伸子ピアノリサイタル壱岐邦雄
 

 植田伸子は日本だけでなくメキシコほか海外でも毎年リサイタルを行うベテランで、CDも5枚を数える。近年は朗読劇『月光の夏』出演などさらなる活動の場を広げている。
  曲目は前半にべートーヴュンのソナタふたつ(『月光』と『ワルトシュタイン』)、後半はブラームス(3つの間奏曲作品117)とショパン(バラード第3番、第1番)。
  『月光ソナタ』は、彼女にとって、今もっとも愛着の深い曲(最新5枚目のCDにも収録されている)だけに入念緻密に奏でた。アダージョは左手の内声を抑え気味に響かせて右手の3連リズムをくっきりと刻み、メロディーラインをゆったりとテヌートさせる。アレグレットは主部のスタカートとレガート、トリオのスフォルツァンドとフォルテピアノを対比・協調させて密度を深め、この楽章が単なる両端楽章のブリッジではないという確かな存在感を刻印した。プレストは強美のソノリティで炸裂、アルペッジョがきらめいてまさにアジタート&ブリリアント。テンポとダイナミクスが楽章を追って速まり強まるというこのソナタの特性を際立たせ、その魅力を充分輝かせての快演であった。『ワルトシュタイン』は気迫充分ながら、時に前のめりとなるシーンがなきにしもあらず。ブラームスは和音よりも声部をくっきりと響かせ、ショパンは明快に歌う。中でもバラード第3番がドラマティック&ピアニスティックな好演であった。
(9月17日 東京文化会館小ホール)

2006年「ショパン」11月号より転載
演奏会評より
『植田伸子は日本だけではなくメキシコほか海外でも毎年リサイタルを行うベテランで、CDも5枚を数える。“月光ソナタ”は彼女にとって、今もっとも愛着の深い曲(最新5枚目のCDにも収録されている)だけに入念緻密に奏でた。テンポとダイナミクスが楽章を追って強まるというこのソナタの特性を際立たせ、その魅力を充分輝かせての快演であった。ブラームスは和音よりも声部をくっきりと響かせ、ショパンは明解に歌う。中でもバラード3番がドラマティック&ピアニスティックな好演であった。』
音楽評論家=壱岐邦雄(ショパン 2006年11月号)
 
『リサイタル歴20年以上というこのピアニストは、たゆまぬ精進を感じさせる安定したテクニックの持ち主で、骨格のしっかりした音楽を構築。《悲愴》はよく弾き込まれ、細部まで目配りの行き届いた演奏。《熱情》はフィナーレは十分に白熱し、ことにコーダは一塵の嵐が吹くねけた。』
音楽評論家=萩谷由喜子(音楽の友2005年9月号)
『植田伸子は常に、音楽のあるべき姿を求めているように思う。奇をてらうことのないその姿勢は純粋である。また、音楽は美しくあれ・・という意識が全体に感じられる。』
音楽評論家=時幹雄(ムジカノーヴァ2005年10月号)
『《熱情》はベートーヴェン中期の傑作にふさわしい風格を備え、響かせた。第一楽章のコーダや終楽章でのストレッタが白熱、緊迫するあたりはまさに「アパッショナータ」であった。』
音楽評論家=壱岐邦雄(ショパン2005年10月)
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